4月4日の日経新聞朝刊で日航の整理解雇に関する 記事が掲載されました。

整理解雇問題を考える上で大変参考となる記事だと思われます。



日航の整理解雇 妥当性は?

 

・・・日本経済新聞(4月4日朝刊) 記事紹介・・・

 

業績V字回復で浮上 「4要件」巡る司法判断注目

 

経済情勢変わり“視界不良”

 

 日本航空に昨年末に解雇された元社員が、解雇は無効だとして職場復帰などを求める裁判が3月に始まった。元社員は業績好転などから不当解雇だと主張、会社側と真っ向から対立している。これまで司法判断の基準となっていた「整理解雇の4要件」を巡り、裁判所がどのような判断を下すのか注目される。

 

 日航は東京地裁が昨年11月に認可した更生計画で、グループで約1万6千人の削減を掲げた。認可前から契約、派遣社員の削減や早期退職制度の活用を進めたほか、昨年9月以降は3度にわたり希望退職を実施。それでも目標に届かなかったため、昨年末に機長、副操縦士、客室乗務員あわせて165人を解雇した。

 

9割が不当と訴訟

 うち約9割が不当な人員整理だとして賃金の支払いなどを求め、今年1月に東京地裁に訴えを起こした。「不当な解雇を撤回しろ!」。2月22日、羽田空港近くの日航本社前に原告や支援者約250人が集まった。「利益をあげている点だけをみても不当な解雇だ」。ボーイング777の機長だった原告団長の山口宏弥氏は憤りを隠さない。

 企業を存続させるために、経営上の都合で正社員を解雇する場合には裁判所が決めた4つのポイントがある。具体的には(1)人員整理の必要性がある(2)解雇以外の方法を十分に探る(3)解雇対象者の選定が妥当である(4)組合との協議などを尽くす――ことだ。

 

「整理解雇の4要件」を名刺の裏に刷り込む山口氏は「日航はすべて満たさず無効だ」と話す。ワークシェアリング(仕事の分かち合い)、一時帰休など解雇を避けるための方策を尽くしていないことや、解雇対象者の選定で再就職が難しい高齢者から解雇したことなどを例に挙げる。

 

 日航は前期決算で多額の営業黒字を確保したもようだ。稲盛和夫会長も2月、「(業績は)月を追うごとに良くなってきている」と述べ、雇用継続が不可能ではなかったと認めた。

 

 それでも解雇に踏み切った理由について稲盛氏は「(巨額の)債権放棄を迫られた金融機関などの債権者の承認と裁判所の認可をもらった更生計画を、過去の日航経営陣のようにほごにするわけにいかなかった」と説明する。

 これに対し、原告側は更生手続き中の会社も整理解雇規制が適用されると主張する。確かに、かつて国会審議で政府側は「一般の会社における整理解雇と同様の法理が適用され、更生会社であれば整理解雇が法律上容易になることはない」と答弁している。

 

 日航側は裁判で(1)大型機の削減により運航乗務員などをスリム化せざるを得ず、人員整理の必要性は十分にあった(2)解雇対象者の選定は貢献度による方式より年齢基準のほうが客観的――として解雇の有効性を主張する方針。詳細な給与データも提出する。

 

 裁判の焦点である「整理解雇の4要件」は司法判断の蓄積から生まれた。1973年の第1次石油危機以降、雇用調整に伴う紛争が相次ぎ、裁判所は正社員の保護ルールとして4要件の骨格を定めた。正社員は意に反する出向や配転命令に応じる代わりに、年功序列型賃金システムの中で長く働いて帳尻を合わせていることを重視した結果だ。

 

部分的に緩む規制

 しかし、バブル崩壊後の厳しい経済情勢を受け解雇規制は部分的に緩んできている。例えば有効な解雇と認められる絶対的な「要件」ではなく、有効かどうかを総合判断する「要素」とする裁判例が増えている。整理解雇前の希望退職の募集を不要とする司法判断も出ている。

 

 経済学者からはかねて批判が出ていた。先に職を失う派遣や契約社員など非正規社員の犠牲の上に正社員の雇用が守られていることに加え、正社員を過剰に保護すれば能力開発意欲の低下をもたらすとの考えからだ。

 企業にすれば一度採用すると人員整理しにくいため、成長が鈍化すると採用を極端に絞り込む。慶応大学の国領二郎教授は就職活動の現状を「沈みゆくタイタニック号の1等船室を奪い合っているようなものだ」と指摘する。

 

 整理解雇規制が固まったのは昭和の終わり。平成の低成長期に入り、産業界では年功序列型の人事制度が徐々に崩れるとともに、成果主義の導入も進んだ。

 既に雇用者の3割強を占める非正規社員と正社員の格差が社会問題になり、同一労働・同一処遇という考えも広がり始めた。雇用調整の場面で正規、非正規を理由に大きな差をつけることは「将来、不合理で悪だという新しい判例が登場するのは必然」(高井伸夫弁護士)との指摘もある。

 

 とはいえ、既採用の正社員は長期雇用への強い期待と一定の保護を受ける法的権利を持つ。安藤至大・日本大学准教授らは、社会変化にあわせて裁判所が整理解雇規制を微調整したとしても伝統的な大企業は雇用調整の手法を大きく変えることはないとみる。安易に整理解雇に動けば「若い社員たちがいずれ自分たちも同じ扱いをされると考え、熱心に働かなくなることが予想されるからだ」(安藤氏)。

 

 公的資金を受け、事業再構築でV字回復する日航。3月末には更生手続きを終えた。司法ルールは絶対ではなく、その時々の社会の状況に応じて揺らぐ。耳目を集める今回の整理解雇問題で、世界第3位となった経済国の裁判官はどのような司法判断を下すのだろうか。

 

(編集委員 三宅伸吾)

 

 

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