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“心の風邪”では片付けられないうつ病をどう乗り越えるか
6月27日10時31分配信 ITmediaエンタープライズ


仕事や家庭での悩みから心や体のバランスが崩れ、うつ病になってしまう人が後を絶たない。
うつ病から自殺に至るケースも多いとも言われ、個人や企業にとってうつ病への取り組みは重要な課題だ。


メンタルヘルスケアを手掛けるセーフティネットの山崎敦社長は、「“心の風邪”という表現もあるが、もっと真剣に向き合うべきもの」と話す。


山崎氏は、1967~1999年まで海上自衛隊に在席し、第6航空隊指令や下総教育群指令などを歴任したが、退官までの6年間に3人の部下を自殺で失った。
「悩みを抱える人の受け皿があれば、自殺に至るケースを少しでも減らせるのではないかと考えている」と山崎氏は話し、人材会社パソナの支援を受けてセーフティネットを創業した。


セーフティネットは、約400社の企業から委託を受けて、従業員やその家族からの悩み相談に応えている。
1日当たり約100件の相談が電話やメール、面談で寄せられ、50人ほどの専門家が24時間体制で受け付けている。
対応する専門家は、産業カウンセラーや看護士、弁護士、警察OBなど、さまざまなキャリアを持つベテランばかりだ。



◆なぜうつ病が増えるのか?◆

うつ病は、雇用や経済的な不安、人間関係、家庭問題、身体の変化といった悩み事を日常的に抱え込むことで発症することが多いといわれる。
うつ病になる人のタイプは、真面目で責任感が強いという特徴が指摘がなされるが、山崎氏はそれらに加えて、ストレスの発散や息抜きが苦手なタイプである場合が多いという。

「スポーツをしたり、人と会話をしたりするのが苦手であり、悩み事を常に考えている状態が続いてしまう。本来は悩みとは別のことに目を向け、脳を休める機会を持つのが望ましい」と山崎氏。


また、悩みの愚痴を言いたくても言えず、愚痴を聞いてくれる環境が失われていることも、うつ病が増加の背景の一つにあるのではないかともいう。
「ストレスが増えたというよりも、ストレスを解消できる場面が少ない」
(山崎氏)


例えば、かつては仕事帰りに上司と部下が飲みに行くというのが職場における一つのコミュニケーションだった。
「上司が部下の悩みや愚痴を聞くようで、実際には上司も愚痴をこぼす。お互いがストレスを解消できる機会だった」(山崎氏)


また核家族化や集合住宅に暮らす人が増え、近隣住民と顔を合わせる機会も少なくなった。

以前であれば、ちょっとした井戸端会議での雑談や愚痴がストレス発散の場になっていた。
「こうした人間関係はわずらわしいと感じつつも、お互いにストレスを発散、吸収する仕組みとして機能していたと思う。個人的には残念に思う」(山崎氏)


◆社員の悩みは会社のリスク◆

近年、相談が増えている業種がIT関連や製造である。
IT関連企業ではプロジェクトのカットオーバーに対する周囲の圧力や、他社に常駐していることで人間関係が希薄になってしまうことなどが引き金となり、うつ病に至ってしまうケースが多いという。


「予算や納期に追われることで自責の念に駆られたり、仕事自体にのめり込んでしまったりする人も多い。深夜遅くまで働くなど長時間労働が続くだけでなく、帰宅してもインターネットやゲームを楽しむ人も多いため、体を休める時間がまったくないようだ」と山崎氏。


製造系企業の50代の幹部社員は、部下の指導方法について悩みを抱えていたという。

かつては先輩社員の技を盗んで体得せよという指導方針だったが、自身が指導する立場になると若い後輩社員がついてこない。

その結果、休職を余儀なくされるほどの深刻な事態になってしまった。


うつ病にまで至ってしまった場合、山崎氏は本人ばかりではなく、家族や同僚、企業の人事担当者までも巻き込んでしまうケースが多いと指摘する。

周囲の人間も本人に対してどのように接すべきかについて悩み、常に気をつかってしまう。

「特に人事担当者は本人の復帰後も含めて対応しなくてはならず、大きな負担を抱えてしまう。人事担当者もうつ病になってしまい、休職してしまうケースもある」(山崎氏)


うつ病を軽い病気だと安易にとらえる企業経営者も多く、適切な対応を取らなければ悩みを抱える社員を自殺に追い込む危険もある。

その結果、悩みの原因が職場であれば企業には安全管理義務の責任を問われてしまう。

遺族が労災認定を求めて訴訟に起こす事例も多く、企業側の責任が適切に果たされていないことが明確になり、多額の補償金を支払うケースも多い。


こうした状況を受けて、近年は大企業を中心に産業カウンセラーを配置するケースも増えつつある。

しかし、相談者が「人事考課に影響するのではないかと懸念したり、相談内容によって適切なアドバイスができなかったりするケースもあり、十分に機能していないという課題を抱える。


同社でも当初は相談者のプロフィールを確認していたが、会社に報告されるのではないかという懸念に配慮して、相談者が明らかにするまで尋ねない。

相談内容は企業経営や犯罪を助長するようなものを除いて制限しておらず、可能な限りアドバイスや解決手段を提供するようにしているという。


例えば従業員の家族から「子供のオムツはどの製品がいいか」という相談もあった。
母親の立場では知人に尋ねづらい悩みであるものの、同社ではそうした心配をせずに、気軽に相談できる環境を目指してしているという。

「幸いにもさまざまな人生経験を持つ人々が支援してくれるようになり、日常生活に関するものから法的に対処しなければならないものまで、さまざまな相談に答えられるようになった」(山崎氏)


寄せられた相談やアドバイスした内容は、週一回のミーティングでカウンセラー同士が共有するようにしており、対応者が異なった場合でもスムーズに相談を受けるようにしている。


◆うつ病を防ぐには◆

企業で社員がうつ病に至らないようにするには、社員本人やその周囲が少しでも違和感を覚えたら、直ちに休養することが大事だと山崎氏。


「熟睡できない、食欲がないという日が続いたら注意すべき。すぐに仕事から離れて体や脳を休め、うつ病を予防してほしい」(山崎氏)


しかし、本人がそうした対処をできない場合もある。
周囲では、例えば労働時間などを基準にして残業時間が1カ月に80時間を越えているような場合に、本人が訴えなくとも直に休ませるなどの対応が不可欠だという。


「自殺にまで至ってしまうと、必ず周囲の人間に“異変や兆候がなかったのか”“事前に気付けなかったのか”と問い詰める声がある。

周囲の人も“言われれば心当たりがあったが、その時は気付けなかった”という気持ちがほとんど。
自殺を防げなかったことに強く責任を感じて悩み込む人もいる」と山崎氏は話す。


うつ病は目に見える兆候が分かりづらいことから、早い段階で気持ちを切り替えられるきっかけを作ったり、相談の場を設けたりすることで、予防していくことが重要なようだ。


また、うつ病から復帰できた後にも配慮が欠かせないと山崎氏は指摘する。
本人にはうつ病を再発するのではないかという不安を抱えている場合が多い。

「周囲ではうつ病に対する理解が欠かせない。“前みたいに仕事ができるだろう”という上司の声などは特に危険」(山崎氏)


うつ病に至った原因を本人と周囲が共有できるようであれば、可能な範囲で改善に取り組むことや、そこまでの対応が難しい場合には本人が自分ペースを取り戻せるまで、周囲が無理のないペースで見守っていくことで、再発を防げる可能性が高まる。


「過剰な対応は、むしろ周囲にうつ病のリスクを広げる恐れがある。われわれも悩み事を根本から解決できる支援を心掛けている。1人でも多く自殺者を減らしたい」(山崎氏)



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