ここ最近は業務内容がなかなか厳しいものが多く、ブログを更新する気力がありませんでした。特に中小企業緊急雇用安定助成金の相談なども多く景気の早期回復が望まれます。

今日はまもなく始まる裁判員制度に関し、私ども社会保険労務士が事業所さんより質問を受けるであろう内容を以下にまとめてみました。

最高裁判所のホームページでは、全国で1年当たり、裁判員候補者として約300人~600人に1人程度(0.18~0.35%)が裁判所に出向き、約3,500人に1人程度(0.03%)が実際に裁判員または補充裁判員として刑事裁判に参加する試算が発表されています。このため、会社経営者・総務担当の方は事前に対応方法の検討を行っておく必要があります。


● 裁判員候補者に選ばれたことは,自分で会社に連絡するべきか?

裁判所から,裁判員候補者の方の勤め先に,裁判員に選ばれたことを連絡することになっていません。勤め先に説明する必要があれば,裁判所から送付されてきた選任手続期日のお知らせ(呼出状)を会社の上司等に見せても差し支えありません。

● 仕事を休むと裁判員であることが分かってしまうのではないか?

休暇を取得するために裁判員になったことを上司等に話すことは差し支えありません。ただし,部下等が裁判員になったことを,会社や上司等が公にすることは法律で禁止されていますので、注意が必要です。

● 裁判員になって仕事を休んだために,会社を辞めさせられるか?

裁判員の仕事に必要な休みをとることは労働基準法によって認められています(労働基準法7条)。また,裁判員として仕事を休んだことを理由に,解雇などの不利益な扱いをすることは裁判員法によって禁止されています(裁判員法100条)。

● 裁判員になったら,何日くらい裁判所に行かなければならないのか?

実際の審理日数は,それぞれの事件の内容により異なりますので一概にはいえませんが、裁判員裁判では,法廷での審理を始める前に,裁判官,検察官,弁護人の三者で、ポイントを絞ったスピーディーな裁判が行われるように,事件の争点や証拠を整理し,審理計画を明確にするための手続(公判前整理手続)が行われます。また,できるだけ連日的に開廷することになっていますので,約7割の事件が3日以内で終わると見込まれています。(約2割の事件が5日以内,約1割の事件が5日超の見込み)。
1日にどのくらいの時間を行うかは,通常は5時間程度と考えられます。

● 裁判員による休暇期間は有給から無給か?

会社は裁判員の仕事をするうえで必要とされる休暇の請求を拒むことはできません。これは上記にも記載ある通り、労働基準法第7条(公民権の行使の保障)で定められています。ただし、裁判員の仕事に従事するための休暇制度を設けることは義務付けられておりませんので,各企業の判断に委ねられることになります。なお、制度を設けた場合にも休暇中の賃金については、有給でも無給でも構いません。

● 日当は,いくら支払われるのか?

日当の具体的な額は,選任手続や審理・評議などの時間に応じて,裁判員候補者・選任予定裁判員については1日当たり8000円以内,裁判員・補充裁判員については1日当たり1万円以内で,決められます(裁判員の参加する刑事裁判に関する規則7条)。たとえば,裁判員候補者の方については,選任手続が午前中だけで終わり,裁判員に選任されなかった場合は,最高額の半額程度が支払われるものと思われます。また、日当は裁判所に行く方個人に対して支払いされるものなので,会社に対しては支払いされることはありません。

● 日当と会社の有給制度により、お金を2重で受け取ることは違法か?

「裁判員制度で日当がもらえたら、制度有給でお金をもらっている場合は二重取りになるのでは」という疑問がでてきます。しかし、この日当は裁判員等としての職務を行うに当たって生じる損害(裁判所に出向くための諸雑費など)の一部を補償するためのものです。そのため、従業員が有給休暇を取って裁判に参加した場合でも、趣旨が異なるため、日当を受け取っても問題にならないと思われます。

● 裁判員や裁判員候補者等として裁判所に行った場合に,交通費等は支払われるのか?

裁判員や裁判員候補者等になって裁判所に行く場合には,旅費(交通費)と日当が支払われます。また,裁判所が自宅から遠いなどの理由で宿泊しなければならない方には,宿泊料も支払われます。なお,旅費,日当,宿泊料の額は,最高裁判所規則で定められた方法で計算されますが、原則として最も経済的な(安価な)経路・交通手段で計算されますので,実際にかかった交通費と一致しないこともあります。         また,鉄道・船・飛行機以外(例えば,バス,自家用車,徒歩等)の区間は,距離に応じて1km当たり37円で計算した金額が支払われます。

●裁判所へ行くのに,会社へ立ち寄るなど迂回した場合の旅費は?

迂回をした場合でも,自宅から裁判所へ直接お越しいただく経路での交通費が支払われます。

● 新幹線や特急列車を利用することができるか?

 鉄道の場合,新幹線や特急の片道の利用区間が100km以上の場合,運賃のほかに指定席特急料金が支払われます(なお,グリーン料金は支払われません)。また,新幹線や特急の片道の利用区間が100km未満であっても,これらを利用することで宿泊する必要がなくなる場合(例えば,裁判所に行く時間に間に合わせるために,普通列車で行くと前日に自宅を出発して宿泊しなければならないが,特急を利用すると,当日朝の出発で間に合うような場合)などは,特急料金が支払われます。これらの場合に当たらないときは,実際に新幹線や特急を利用しても,特急料金は支払われませんし、「のぞみ号」の新幹線料金についても原則支払われません。

● バスやタクシーを利用する場合は,旅費はどうなるか?

鉄道,船,飛行機以外の区間は,距離に応じて1km当たり37円で計算した金額が支払われます。自宅から最寄り駅までバスやタクシーを利用した場合には,実際にかかったバス料金やタクシー料金が支払われるのではなく,その距離に応じて1km当たり37円で計算した金額が支払われます。また,鉄道の本数が少なくて,裁判所のある都市までバスやタクシーを利用した場合には,鉄道路線がある区間では鉄道運賃が支払われ,鉄道路線がない区間ではその距離に応じた金額が支払われます。したがって,バス料金やタクシー料金が支払われるわけではありませんのでご注意ください。

● 宿泊料は,どのような場合に,いくら支払われるのですか。

宿泊料は,裁判所が自宅から遠いなどの理由で宿泊しなければならない場合(例えば,裁判所に行く時間に間に合わせるためには,前日に自宅を出発しなければならない場合や,裁判の終了後,当日中の帰宅が困難となるような場合など)に支払われます。宿泊料の額は,実際にかかった宿泊料金ではなく,裁判所の地域によって,1泊当たり7800円又は8700円が支払われます。なお,宿泊料が支払われる方には,「裁判員等選任手続期日のお知らせ(呼出状)」の宿泊料支給の有無に「有」と表示されています。ただし,裁判所に行くために宿泊が必要である場合でも,自宅に泊まる等,宿泊料がかからないことが明らかな場合には,宿泊料は支払われません。
単身赴任先から裁判所に行く場合には,その単身赴任先から裁判所までの旅費(交通費)が支払われます。例えば,単身赴任先である東京から広島地方裁判所に行き,裁判が終了すれば再び東京に戻るような場合であれば,単身赴任先(東京)から裁判所(広島)までの間の旅費(交通費)が支払われます。ただし、そのような場合には,あらかじめ裁判所にお知らせておく必要がありますし、単身赴任先が,裁判所の管轄区域外にあり,裁判所に行くことが困難である場合には,辞退の申立てをすることができます。

● 日当などを受け取った場合,所得税の確定申告の必要か?

裁判員や裁判員候補者等に支払われる日当は,裁判員等の職務に対する報酬ではなく,裁判員候補者等として裁判所に行くことや裁判員等の職務を行うに当たって生じる損害(例えば,裁判所に来るための諸雑費や一時保育料等の出費,収入の減少など)の一部を補償するためのものです。
そのため,裁判員や裁判員候補者等に支払われる日当に係る所得は,給与所得及び一時所得のいずれにもあたらないことから,裁判員等の「雑所得」として取り扱われます。よって裁判所からは源泉徴収が行われません。
また、「裁判員等に対して支給される旅費等については、その合計額を雑所得に係る総収入金額に算入する」とし、「実際に負担した旅費及び宿泊料、その他裁判員等が出頭するのに直接要した費用の額の合計額については、旅費等に係る雑所得の金額の計算上必要経費に算入する」とされています。
仮に給与を1か所から受けていて,年末調整がお済みの方は,この日当による雑所得の金額など各種所得金額(給与所得と退職所得を除きます。)の合計額が20万円以下の場合,所得税の確定申告を行う必要はありませんが,一定の場合は所得税の確定申告を行う必要がある場合もありますのでご注意ください。