労働者を派遣社員のように働かせながら、請負契約を装う違法な「偽装請負」について、厚生労働省は、大手メーカーなど受け入れ企業に、労働者を直接雇用するよう指導することを決めた。偽装請負が判明した時、これまでは派遣契約への切り替えを認めていたが、偽装請負で働いた期間が派遣で認められる期間を超える場合は、早期の直接雇用を指導する。企業にとって、偽装請負の最大の利点である直接雇用の回避が難しくなり、製造業で特に多い偽装請負の解消の動きが一気に加速しそうだ。
 製造業への労働者派遣は、04年3月に解禁された。派遣の立場が固定化しないよう、派遣可能期間を超えて働かせる場合、企業が労働者に直接雇用を申し込む義務も導入。製造業への派遣可能期間は、今年3月に1年から3年に延長される。

 一方、厚労省は偽装請負の改善手段として、これまで派遣契約への切り替えを認めてきた。05年10月に文書指導したキヤノン宇都宮工場の事例でも、企業側が示した06年3月以降に派遣に切り替える改善計画を認めた。1年の派遣可能期間を超えて働かせている場合は、直接雇用を指導することも可能だが、企業の負担に一定の配慮をしていた。

 しかし、製造業の派遣期間が3年になると、長年偽装請負をしていた企業が、発覚後にさらに3年間も派遣として働かせることになる。そこで今後は、直接雇用に切り替えるよう、口頭を含め、指導を厳格にしていく。厚労省は「派遣制度は製造業に定着してきており、指導を強めていく段階」としている。

 偽装請負の期間も派遣期間と見なし、労働局が直接雇用を指導した事例はすでにある。大手機械メーカー、クボタの子会社は、今年1月に偽装請負で大阪労働局の指導を受けた。このためクボタは、グループ全体の派遣労働者1400人を4月から順次契約社員にする。「行政の指導強化を受け、法令順守を徹底することにした」という。

 今後は、請負労働者が労働局に直接雇用の指導を求める動きが広がる可能性がある。人材会社も営業基盤を失うことにつながるので、法令順守の徹底を迫られる。ただし厚労省は、すでに派遣契約に切り替えて、偽装請負が解消された事例まで指導の対象とすることには慎重だ。


 〈キーワード・偽装請負〉人材会社がメーカーなどから仕事を請け負い、製品やサービスを引き渡す請負契約を装うが、実際は労働者をメーカーなどに送り込み、派遣社員のようにメーカーが直接指示したり、メーカーの社員と混在して働かせたりすること。派遣社員だと労働者派遣法に基づき、直接雇用の申し込みなど様々な義務を負うので、こうした義務を免れながら長期間働かせることを狙う。

 厚生労働省が、偽装請負で人材会社など請負事業者を文書指導した件数は、06年4〜12月の間に1403件に上り、05年度の倍以上に急増。大手メーカーなど発注業者への指導も582件と、1.6倍に増えている。