★ 中小会計要領の主な内容 その9 固定資産 2 ★
投稿日:2012年06月25日月曜日 10時09分24秒
投稿者:社会保険労務士・税理士 溝江 諭 KSC会計事務所 カテゴリー: General
札幌市豊平区の 社会保険労士・税理士 溝江 諭(みぞえさとし) です。
中小会計要領の各論のうち主なものについて、法人税法との異同を意識しながら見て行きましょう。
今回は、 固定資産 2 です。
固定資産については、法人税法の詳細な定めに対し、中小会計要領では簡略な定めとなっており、そのため、法人税法との異同に着目すると、次の点が明確になっていません。
(1) 取得価額算入費用の取扱い
(2) 少額・短期の減価償却資産の取扱い
(3) 資本的支出と修繕費の取扱い
(4) 中小会計要領の相当の減価償却と法人税法上の減価償却との違い
前回は、上記のうち(1)と(2)について解説しました。
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=165
今回は(3)と(4)についてです。
(3) 資本的支出と修繕費の取扱い
中小会計要領では、資本的支出と修繕費の取扱いに関し何も触れていません。これは、中小会計指針においても同様です。
このため、会計実務では資本的支出と修繕費の区分が問題となります。すなわち、資本的支出として固定資産に計上するべき支出と一括費用計上が可能な修繕費とするべき支出をどのように区分するのかという問題です。
これに関しては、法人税法施行令第132条で、法人が有する固定資産につき支出する金額で、①使用可能期間を延長させる部分に対応する金額と②価額を増加させる部分に対応する金額(いずれにも該当する場合は多い方の金額)は資本的支出として損金の額に算入しないこととされています。しかし、この規定を厳格に適用するためには使用可能期間の延長部分や価額の増加部分を適正に予測することが求められますが、その予測は極めて困難なため、この基準により区分することは容易ではありません。
そこで、法人税法では基本通達において、一の修理・改良のために要した支出額につき、次のような形式基準を示すことにより、これを補っています。
1 20万円未満か(基通7−8−3(一)) → Yes ならば「修繕費」
2 周期の短い費用(おおむね3年)か(基通7−8−3(二)) → Yes ならば「修繕費」
3 明らかに資本的支出の部分か(基通7−8−1)) → Yes ならば「資本的支出」
4 明らかに修繕費の部分か(基通7−8−2) → Yes ならば「修繕費」
5 資本的支出と修繕費の部分が明らかでないときは60万円未満か(基通7−8−4(一)) → Yes ならば「修繕費」
6 前期末取得価格の10%相当額以下か(基通7−8−4(二)) → Yes ならば「修繕費」
7 被災等の場合の特例により経理するか(基通7−8−6)
→ Yes ならば A = 支出金額×30% は「修繕費」
B = 支出金額 ― A は「資本的支出」
8 継続して7:3基準により経理しているか(基通7−8−5)
→ Yes ならば A = 支出金額×30% または
C = 前期末取得価額×10% のうち、
少ない金額 D が「修繕費」
E = 支出金額 ― D は「資本的支出」
9 資本的支出かどうかを実質的に判定(令132)
これならば、区分がずっと楽になります。
ところで、ここで注意したい点は、「2 周期の短い費用(おおむね3年)か」、「3 明らかに資本的支出の部分か」、「4 明らかに修繕費の部分か」には「金額の大小による判定がない」という点です。
たとえば、周期の短い費用であれば、どんなに多額の支出でも修繕費になるのです。同様に、明らかに修繕費に該当する支出であれば全額が修繕費となりますから、その支出が「明らかに通常の維持管理または原状回復のためのもの」であればその全額を修繕費としてもなんら問題がないことになります。
なお、上記のうち、前期末取得価格とは、その資産の(原始取得価額+前期までの資本的支出の累計額)で計算します。
また、上記において、修繕費とする場合には基本的に損金経理が要件とされますので、確定した決算において費用または損失として経理することが要求されます。
(4) 中小会計要領の相当の減価償却と法人税法上の減価償却との違い
中小会計要領では、次のうように、有形、無形の固定資産については相当の償却を行なうよう定めています。
(3)有形固定資産は、定率法、定額法等の方法に従い、相当の減価償却を行う。
(4)無形固定資産は、原則として定額法により、相当の減価償却を行う。
これらの固定資産については、通常、使用に応じてその価値が下落するため、一定の方法によりその使用可能期間(耐用年数)にわたって減価償却費を計上する必要があるとされているためです。本来ならば、これらの資産は減価償却資産と呼ぶべきものですが、中小会計要領ではなぜか固定資産という用語を使用しています。
また、財務会計や税務会計では、減価償却資産の範囲には事業の用に供している生物も含まれるのですが、中小会計要領ではこれについては触れていません。
「相当の減価償却」については、「一般的に、耐用年数にわたって、毎期、規則的に減価償却を行うことが考えられます。」と中小会計要領ではその一例を示すに留まり、その意義や範囲について定めていません。このため、この他にどのような償却が相当の減価償却に該当するのかが明らかでなく、分かりづらい概念となっています。
なお、この点に関しては「中小企業の会計に関する検討会」でもさまざまな意見が出たようです(注1)。
では、会計実務においてはどのように考えるべきなのでしょうか。
中小会計要領には、「相当の減価償却を行なう。」とあるため、経営者の意志の下でそれに沿った償却を行うことが求められますが、必ずしも毎期の規則的な償却を要求されているわけではありません。例えば、会社の実情に合わせて、耐用年数を短縮・延長したり、実際の年間使用時間に対応した償却も可能でしょう。
会社法においても「償却すべき資産については、事業年度の末日(事業年度の末日以外の日において評価すべき場合にあっては、その日)において、相当の償却をしなければならない」と規定されていますので(会社計算規則5条2項)、減価償却資産を事業の用に供している限り、同様な償却が求められていると考えるべきです。
これに対し、法人税法では減価償却費の計上は任意とされています(注2)。このため、「繰越欠損金が十分にあるので、今期は減価償却費を一部しか計上しない。あるいは一切計上しない。」という選択も法人税法上は許されることになります。
これは、法人税法では損金算入とする販売管理費、その他の費用については原則として債務の確定が要件とされていますが、償却費についてはそれが要件とされておらず、あくまで例外とされています。このため、償却費の計上は強制されず、任意とされたのでしょう(注3)。
一般的な中小企業の株主等は親族など限られた者で構成されている場合が殆どです。そして、このような閉鎖的な中小企業の外部の利害関係者といえば借入先の金融機関などごく限られた範囲の者となります。このような閉鎖的な中小企業の場合には、「相当の減価償却」の範囲をかなり拡大して考え、例えば、注記という形で減価償却についての情報を開示しているのであれば(例えば、「法人税法上の償却限度額☓☓円に対し、○◯円を計上している。」というような注記。)、このような減価償却費の一部計上あるいは非計上を認めても良いのではないかと思います。
但し、役員やその親族以外の第三者が株主となっている場合は、会社法違反となる事態を避けるために、「相当と認められる減価償却」を行なう必要があるでしょう。
なお、法人税法の減価償却費については、損金経理を要求されていますので、決算調整として決算に組み込むことが必要です。その上で、償却限度額を超える過大計上があれば別表4で加算が強制されますが、過少計上の場合には、特別の場合を除き不足分を減算することはできません。
次回は最終回、引当金 についてです。
≪中小会計要領の主な内容 その10 引当金≫
http://www.ksc-kaikei.com/news
その他の『ちょっとためになる情報』は、次のサイトの「お知らせ」と「ブログ・コラム」でどうぞ!!
http://www.ksc-kaikei.com/
See you next!
(注1) 中小企業の会計に関する検討会 第5回ワーキンググループ 議事要旨
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/kento/2011/110517GY.htm
(注2) 法人税法31条1項
(注3) 法人税法22条3項
=================================================================
◎ 中小会計要領と法人税法の異同はどのようになっているのでしょうか?
≪中小会計要領の主な内容 その1 実現主義と発生主義≫
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=155
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今回は、 固定資産 2 です。
固定資産については、法人税法の詳細な定めに対し、中小会計要領では簡略な定めとなっており、そのため、法人税法との異同に着目すると、次の点が明確になっていません。
(1) 取得価額算入費用の取扱い
(2) 少額・短期の減価償却資産の取扱い
(3) 資本的支出と修繕費の取扱い
(4) 中小会計要領の相当の減価償却と法人税法上の減価償却との違い
前回は、上記のうち(1)と(2)について解説しました。
http://www.ksc-kaikei.com/news/index.cgi?no=165
今回は(3)と(4)についてです。
(3) 資本的支出と修繕費の取扱い
中小会計要領では、資本的支出と修繕費の取扱いに関し何も触れていません。これは、中小会計指針においても同様です。
このため、会計実務では資本的支出と修繕費の区分が問題となります。すなわち、資本的支出として固定資産に計上するべき支出と一括費用計上が可能な修繕費とするべき支出をどのように区分するのかという問題です。
これに関しては、法人税法施行令第132条で、法人が有する固定資産につき支出する金額で、①使用可能期間を延長させる部分に対応する金額と②価額を増加させる部分に対応する金額(いずれにも該当する場合は多い方の金額)は資本的支出として損金の額に算入しないこととされています。しかし、この規定を厳格に適用するためには使用可能期間の延長部分や価額の増加部分を適正に予測することが求められますが、その予測は極めて困難なため、この基準により区分することは容易ではありません。
そこで、法人税法では基本通達において、一の修理・改良のために要した支出額につき、次のような形式基準を示すことにより、これを補っています。
1 20万円未満か(基通7−8−3(一)) → Yes ならば「修繕費」
2 周期の短い費用(おおむね3年)か(基通7−8−3(二)) → Yes ならば「修繕費」
3 明らかに資本的支出の部分か(基通7−8−1)) → Yes ならば「資本的支出」
4 明らかに修繕費の部分か(基通7−8−2) → Yes ならば「修繕費」
5 資本的支出と修繕費の部分が明らかでないときは60万円未満か(基通7−8−4(一)) → Yes ならば「修繕費」
6 前期末取得価格の10%相当額以下か(基通7−8−4(二)) → Yes ならば「修繕費」
7 被災等の場合の特例により経理するか(基通7−8−6)
→ Yes ならば A = 支出金額×30% は「修繕費」
B = 支出金額 ― A は「資本的支出」
8 継続して7:3基準により経理しているか(基通7−8−5)
→ Yes ならば A = 支出金額×30% または
C = 前期末取得価額×10% のうち、
少ない金額 D が「修繕費」
E = 支出金額 ― D は「資本的支出」
9 資本的支出かどうかを実質的に判定(令132)
これならば、区分がずっと楽になります。
ところで、ここで注意したい点は、「2 周期の短い費用(おおむね3年)か」、「3 明らかに資本的支出の部分か」、「4 明らかに修繕費の部分か」には「金額の大小による判定がない」という点です。
たとえば、周期の短い費用であれば、どんなに多額の支出でも修繕費になるのです。同様に、明らかに修繕費に該当する支出であれば全額が修繕費となりますから、その支出が「明らかに通常の維持管理または原状回復のためのもの」であればその全額を修繕費としてもなんら問題がないことになります。
なお、上記のうち、前期末取得価格とは、その資産の(原始取得価額+前期までの資本的支出の累計額)で計算します。
また、上記において、修繕費とする場合には基本的に損金経理が要件とされますので、確定した決算において費用または損失として経理することが要求されます。
(4) 中小会計要領の相当の減価償却と法人税法上の減価償却との違い
中小会計要領では、次のうように、有形、無形の固定資産については相当の償却を行なうよう定めています。
(3)有形固定資産は、定率法、定額法等の方法に従い、相当の減価償却を行う。
(4)無形固定資産は、原則として定額法により、相当の減価償却を行う。
これらの固定資産については、通常、使用に応じてその価値が下落するため、一定の方法によりその使用可能期間(耐用年数)にわたって減価償却費を計上する必要があるとされているためです。本来ならば、これらの資産は減価償却資産と呼ぶべきものですが、中小会計要領ではなぜか固定資産という用語を使用しています。
また、財務会計や税務会計では、減価償却資産の範囲には事業の用に供している生物も含まれるのですが、中小会計要領ではこれについては触れていません。
「相当の減価償却」については、「一般的に、耐用年数にわたって、毎期、規則的に減価償却を行うことが考えられます。」と中小会計要領ではその一例を示すに留まり、その意義や範囲について定めていません。このため、この他にどのような償却が相当の減価償却に該当するのかが明らかでなく、分かりづらい概念となっています。
なお、この点に関しては「中小企業の会計に関する検討会」でもさまざまな意見が出たようです(注1)。
では、会計実務においてはどのように考えるべきなのでしょうか。
中小会計要領には、「相当の減価償却を行なう。」とあるため、経営者の意志の下でそれに沿った償却を行うことが求められますが、必ずしも毎期の規則的な償却を要求されているわけではありません。例えば、会社の実情に合わせて、耐用年数を短縮・延長したり、実際の年間使用時間に対応した償却も可能でしょう。
会社法においても「償却すべき資産については、事業年度の末日(事業年度の末日以外の日において評価すべき場合にあっては、その日)において、相当の償却をしなければならない」と規定されていますので(会社計算規則5条2項)、減価償却資産を事業の用に供している限り、同様な償却が求められていると考えるべきです。
これに対し、法人税法では減価償却費の計上は任意とされています(注2)。このため、「繰越欠損金が十分にあるので、今期は減価償却費を一部しか計上しない。あるいは一切計上しない。」という選択も法人税法上は許されることになります。
これは、法人税法では損金算入とする販売管理費、その他の費用については原則として債務の確定が要件とされていますが、償却費についてはそれが要件とされておらず、あくまで例外とされています。このため、償却費の計上は強制されず、任意とされたのでしょう(注3)。
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(注3) 法人税法22条3項
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