無許可のビラ配布を理由とする懲戒処分と不当労働行為
事案は、「学校法人Yの就業規則14条12号は、職員の遵守事項として”書面による許可なく、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布あるいは貼付をしないこと”と定めている。Yの丸亀校の教職員で組織する組合であるZは、当初Yの許可を得てから職場ニュースを放課後に職員室内で配布していたが、記事内容に疑問があるとしてYから発行不許可になったのを機に校門外で職場ニュースを配布するようになった。Zは団体交渉で、Yの許可なく校内で就業時間外に職場ニュースを配布することを認めてもらいたい旨要求したが、Yは拒否した。そこで、Zは、昭和53年5月8日、9日、16日にYの許可を得ることなく職員室で職場ニュースを配布した。Yは、同年5月9日にZの委員長に対して就業規則14条12号に違反するとして、”戒告”の処分をなし、また、同年5月16日に”戒告”の処分を行った。Zは、同年5月19日の団体交渉で右各処分の撤回を要求したが、Yは「校内での組合活動は一切拒否する」等述べて拒否した。Zは、右各処分は労働組合活動を理由とする不利益取扱、Zに対する支配介入であると主張し、X(香川地労委)に救済を申し立てた。Xは、Zの申立をほぼ認め、右懲戒処分の撤回を命じた。Yはこれを不服として取消訴訟を提起したもの」である。
これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
また、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
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Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj