世帯年収に応じて月々の負担に上限を定めている公的医療保険の「高額療養費制度」で、治療中に加入保険の切り替わった被保険者の一部が、自己負担分の上限を超えて医療費を「二重払い」していたことが、毎日新聞の取材で分かりました。各種健康保険組合や国民健康保険を運営する地方公共団体などの保険者間での調整がないのが原因で、支払額が月額上限の約2倍に上るケースもあります。医療団体は「患者の負担軽減が制度の目的なのに放置しているのは行政の怠慢だ」と批判しており、厚生労働省などは改善を迫られそうです。

 同省は二重払いの発生数などのデータは把握していない状況です。同省への問い合わせは月1件程度で、被保険者が気付かずこうしたケースが多数潜在している可能性があります。

 取材によると、愛媛県の50代男性の場合、2011年9月初めに病気で手術を受け、入院中の同月中旬、雇い主の都合で退職して国保に自動加入し、同月下旬に治療を終えて退院しました。

 男性は世帯年収が200万円程度から約790万円の中間所得者で、高額療養費の負担上限が規定の「8万100円+α」(αは医療費から一定額を差し引いた額の1%)で済むと考えていました。ところが、会社の健保に上限額を支払ったほか、国保でかかった自己負担分約2万1000円も求められました。

 厚労省によると、自己負担上限月額約8万円の人の保険が切り替われば、二つの保険の自己負担分として最大計約16万円を支払う場合も出てきます。同省国民健康保険課は「保険制度はそれぞれあり、他方の給付状況を見ることができないので、調整は今のところ考えていない」と説明しています。

 労働者住民医療機関連絡会議の斎藤竜太議長は「病気で解雇されて国保になる人もおり、弱者に追い打ちをかけることになる。すぐに是正すべきだ」と話しています。