安全配慮義務
Q:安全配慮義務
対人関係において関わってはならない人間がいる場合、その人物と業務をさせることは、配慮義務違反となるか?
A:否定的に解されます。
1.安全配慮義務は、自衛隊車両整備工場事件(最判昭50.2.25)において確立されたもので、「右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものである」としています。
最近では、この観念に基づく第3の構成(第1は民法上の不法行為責任(民709条、715条)、大2は土地工作物責任(民717条))が、使用者に対する損害賠償請求の法的構成の主流となっています。
2.ここで、労働契約法をみてみると、「使用者は、労働契約に伴い、労働者が、その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」との規定を設け(同大5条)、使用者の労働契約上の安全配慮義務を立法上明らかにしました。
3.前掲以後の判例は、例えば、川義事件最判昭59.4.10などは、雇用契約上の安全配慮義務を、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」としています。
この定義から推し量ると、対人関係において関わってはならない人物がいる場合、その人物と業務をさせないことまで、安全配慮義務の内容に包含されるとはいえませんから、その人物と業務をさせても安全配慮義務違反とは言えないと解されます。
4.付言すると、最判は、安全配慮義務の内容を特定し、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、原告にある、としているので、原告は、抽象的安全配慮義務の存在を主張するだけでは足りず、そのような抽象的義務の内容(例えば、ある種の安全装置を施す義務、当該機械の整備・点検を十分に行う義務、ある事項に関する安全教育を十分に行う義務)を特定し、かつ、の不履行を主張・立証しなければならないとしています。
よって、原告がその具体的内容を主張・立証することに成功した場合は設問は肯定的に解されます(限定的肯定説、一部肯定説)。
5.なお、判旨は、帰責事由の不存在の立証責任は使用者にありとしていますが、本事例ではこちらの証明のほうが容易でしょう。なぜなら、信義則上そのような配慮をすべき義務が(使用者側に)課されているとは、労働契約上も当事者の意思解釈上からいっても想定しがたいからです(菅野「労働法」(弘文堂)468頁参照)。
結論の当否は立証責任の分配によっても大きく異なります。
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