2009年 5月の記事一覧

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09年05月19日 15時44分12秒
Posted by: azuma
みちのく銀行事件(最高裁H12.9.7)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則変更による労働契約の内容の変更)

■みちのく銀行事件(概要)
 就業規則の変更により、55歳以上の行員の賃金削減を行ったことについて、多数労働組合の同意を得ていたが、高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであり、救済ないし緩和措置の効果が不十分であったため、合理性が認められなかった

★ポイント
1.賃金制度の2度わたる見直しを行う際に、労組(従業員の73%が加入)の同意は得たが、少数組合の同意を得ないまま実施した

2.本件就業規則等変更は、変更の対象層、賃金減額幅及び変更後の賃金水準に照らすと、高年層の行員につき雇用の継続や安定化等を図るものではなく、逆に、高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものと評価せざるを得ない。

3.本件における賃金体系の変更は、短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなる

☆判決
 「就業規則の変更によってこのような制度の改正を行う場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに右労働者に大きな不利益のみを受忍させることには、相当性がないものというほかはない。」
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09年05月19日 15時17分20秒
Posted by: azuma
第四銀行事件(最高裁H9.2.28)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則による労働契約の内容の変更)

■第四銀行事件とは(概要)
 就業規則によって、定年を55歳から60歳に延長する代わりに給与が減額された事件で、秋北バス事件・大曲市農協事件の最高裁判例を踏襲し、さらに、合理性の有無の判断に当たっての考慮要素を具体的に列挙し、その考慮要素に照らした上で、就業規則の変更は合理的であるとした 。

★ポイント(就業規則変更の必要性及び相当性の肯定)
1.定年延長の高度の必要性があった
2.定年延長に伴う人件費の増大等を抑える経営上の必要から、従前の定年である55歳以降の賃金水準等を変更する必要性も高度なものであった
3.円滑な定年延長の導入の必要等から、従前の定年である55歳以降の労働条件のみを修正したこともやむを得ない
4.従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえない
5.変更後の55歳以降の労働条件の内容は、多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様である
6.変更後の賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高い
7.定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善である
8.健康上支障のない男子行員にとっても、60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は、決して小さいものではない
9.福利厚生制度の適用延長や拡充等の措置が採られている
10.就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との合意を経て労働協約を締結した上で行われたものである

☆判決
  「合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」


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09年05月19日 12時05分58秒
Posted by: azuma
大曲市農業共同組合事件(最高裁S63.2.16)

労働契約法第9条及び10条についての参考判例
(就業規則による労働契約の内容の変更)
■大曲市農業共同組合事件とは(概要)
 7つの農協の合併に伴い、新たに作成・適用された就業規則の退職給与規定が、合併前の1つの農協の従前の退職給与規定より不利益(退職金支給倍率が低減した)なものであった事例で、秋北バス事件を踏襲した上で、就業規則の合理性について、その必要性及び内容の両面からみて、労働者が被る不利益の程度を考慮しても、新しい労使関係における就業規則の法的規範性を是認できる合理性があるとして、新規則の合理性を認めて、不利益を受ける労働者に対しても拘束力を生じるものとした。

★ポイント

1.退職金支給倍率は低減したが、、給与額は合併にともなう給与調整等によって、相当程度増額されており、退職時までの給与調整の累積額は、おおむね本訴の請求額と等しい。

2.合併の結果、休日・休暇・諸手当、旅費等の面で有利になっている。

3.定年も男子は1年間、女子は3年間延長されている。

☆判決
 「特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。」






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09年05月14日 13時45分20秒
Posted by: azuma
労働契約法 第7条(就業規則と労働契約との法的関係)
■参考判例

●秋北バス事件(S43.12.25)
 就業規則変更により、定年制度を改正して主任以上の職の者の定年を55歳に定めたため、
定年制度の対象となった労働者が解雇された事例で、
 新たな就業規則の作成・変更によって、既得権利を奪い労働者に不利益な労働条件を
一方的に課することは原則として許されないが、
 当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに
同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されない
と解すべきとし、
 不利益を受ける労働者に対しても、変更後の就業規則の適用を認めた。

●電電公社帯広局事件(S61.3.31)
 健康診断受診の業務命令を拒否した労働者に対して、懲戒処分を行った事で、
秋北バス事件の判決の考え方を踏襲し、
 就業規則上の労働者の健康管理上の義務は合理的であり、労働契約の内容となっている
とし、健康診断の受信拒否は懲戒事由に当たり、懲戒処分が有効とされた。

●日立製作所武蔵工場事件
 就業規則に、36協定に基づき時間外労働をさせることがある旨の定めがあったが、
労働者が残業命令に従わなかったため、懲戒解雇した事例で、
秋北バス事件の判決の考え方を踏襲し、
 就業規則は合理的であり、労動契約の内容となっているとし、
懲戒解雇は権利濫用にも該当せず有効とされた。

●フジ興産事件(H15.10.10)
 就業規則に基づき労働者を懲戒解雇したが、懲戒事由に該当するとされた
労働者の行為の時点では就業規則は周知されていなかった事例で、
 就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容の適用を受ける事業場の労働者に
周知させる手続きが採られていることを要するとして、
懲戒解雇を有効とした原審を破棄し、差し戻した。


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